Lanl2DZの使い方


第6周期の重〜い金属イオンの錯体の計算をかけることがあったので、備忘録。
金属錯体分子の計算は、有機分子と比較して扱う電子の数が増えるので、ただでさえ遅くなりますが、第5-6周期になると、なおのこと大変。
基底関数によっては、「Xeまでしか対応してません」とか言って、計算が止まる(参考:HCPシステムズのホームページ)。
重い元素では、結合に関与してこない内核電荷を真面目に計算せずに、「凍結」した状態として扱う有効内核ポテンシャル近似 (ECP) を用いることが、わたし(遷移金属錯体)の分野では多いです(2017年現在)。いわゆる擬ポテンシャル(Pseudopotential)の一種。論文によっては、フローズンコアと書いている場合もあります。

具体的な手法としては、Lanl2DZ(ロスアラモス国立研究所発のメソッド)、あるいはSDD(シュトゥットガルト-ドレスデンのチーム発)になるかと思います。

[この記事に興味がある方は、もしかしてコッチも読んだほうが・・・
「SDDを使った重原子を含む分子の計算」

https://whereareelectrons.blogspot.com/2019/07/sdd.html]

中心金属にECP、配位子に一般的な(6-31G等)基底関数を使って組み合わせる際は、Lanl2DZはダブルゼータ、SDDはトリプルゼータレベルなので合わせた方がよい、という話もあるようです。(計算科学.comさんの記事
(トリプルゼータレベルのLanl2TZなんてのもあるそうです。ただ、gaussian09まではデフォルトでは入っていないので、自分で設定してやることが必要なようです。)
今回計算した金属元素についてはLanl2DZを使っている論文がマジョリティーのようだったので、Lanl2DZを用いましたが、自分のコミュニティーの論文なんかを読んでいるとSDDが多い気がします。

具体的な計算方法
入力ファイルの B3LYP/(基底関数) の部分に、Lanl2DZといれるだけで、計算できます。
この場合、第一、二周期元素にはD95Vという基底関数があてられ、Na-Biの元素にはLos Alamos ECP で内核ポテンシャルを近似した上で、 ダブルゼータレベルの関数で価電子の軌道計算が行われます。

少しアドバンストな計算方法
この、D95Vという関数でよいという場合はよいのですが、配位子は6-31gで計算している場合も多いです。このような場合の方法をメモ書きしておきます。青字はインプットファイルには必要無いです。
基底関数を指定するところに、「genecp」というコマンドをいれます。
これには、genとecpという二つの命令が含まれています。
genは、それぞれの原子に使う基底関数を指示するコマンドです。
ecpは、指定した原子に指定したECPを使ってください、というコマンドです。
これらのコマンドを指定した場合、座標と結合の情報の下に、基底関数の情報と、ECPの情報を入力してやる必要が有ります。

下の入力ファイルの緑の字の部分が、基底関数の情報です。
ここではイリジウムにlanl2dzを、そのほかのN, Cl, C, Hには6-31g(d,p)を使ったってくれ、という意味になります。Irの後の0は、すべてのイリジウムに、という指示になります。
たとえば二つイリジウムがあれば、 Ir 1と Ir 2で、用いる基底関数を変えることも可能なわけです。
すこし大きな錯体分子を計算するときに、中心金属と配位原子には6-311gで、残りの配位子は6-31gでいいや、という場合につかえますね。
アスタリスク(*)には意味がありますので、****はそのままで。
一行、空行を入れることで次の情報に移ります。

オレンジにも、おんなじIr 0がでてきますが、こちらはECPに関する情報になります。(飛ばしてはいけません。)
本当はどんな擬ポテンシャルをあたえるのか記述する必要があるのですが、ありがたいことにgaussianではlanl2dzと打ち込むだけでOKです。lanl2dzとSDD以外の擬ポテンシャルについては打ち込む必要があります。
二行の空行を打ち込むことで、インプットファイルは終了になります。

_____________________________________
# opt ub3lyp/genecp geom=connectivity

20170110

1 2
 Ir                 0.04706100    0.00004200   -0.35054200
 Cl                -0.69777200   -0.00056800   -2.68418200
 ・ 座標/coordinate
 ・
 ・

 50  結合の情報/information of bond
 51
(一行あける/blank)
Ir 0
lanl2dz
****
N Cl C H 0
6-31g(d,p)
****
(一行あける/blank
Ir 0
lanl2dz
(一行あける/blank
(一行あける/blank)終了/end 
_______________________________________


genecpの代わりに、genのみをインプットに指定していると、重原子にLanl2DZを指定してやっても擬ポテンシャルが設定されません。
中で、どんな計算が走るのか知りませんが、ecpを指定せず(オレンジの入力行なしの状態)に計算を行うと分子がへちゃげてしまいました(下図)。
SDDを用いる場合もほぼ同じようですが、どこの核まで擬ポテンシャルとするか指定する必要があるようです。また実際に計算したときにメモを残すことにします。



ちゃんと計算できた構造(左)と、ECPの指定ができてい無い状態で計算した構造(右)
追記:計算化学.comさんのこちらのブログ記事、わかりやすくまとまっています。

参考:HPCシステムズ Gaussian入門メールニュースGaussian日本語マニュアル

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