1次反応・2次反応の活性化パラメータ[アイリングプロット/Eyring Plot]

1次反応、2次反応って同じ式で考察してもいいんだっけ?となって、調べたときの勢いで書きました。

解説記事は多けれど単位の扱いについて明言されているものが少なかったのですが、IUPAC Gold Book によれば、Eyring 式は、1次の反応速度定数 (k [s-1]) について定義された式です。
しかし、もちろん二次反応にも使うことができ、その場合は、標準濃度、c° [M] を k の後ろにつけた形で記述し、辻褄をあわせるようです。
(後述しますが、アトキンス物理化学でも、濃度項については無次元となるようにして説明しています。)

1次の過程について考える場合
k [s-1] =  (kT/h) exp (–{ΔH‡ – TΔS‡}/RT)  [s-1: exp の中は無次元]

2次の過程 (k [M-1 s-1]) について考える場合
k*c°[M-1 s-1 * M] =  (kT/h) exp (–{ΔH‡ – TΔS‡}/RT)

結局、いずれの場合も以下の式を用いてプロットを作れば良いです。
ln (k/T) = {23.760 + ΔS‡/R} + (–ΔH‡/R)(1/T)

アレニウスプロットのときは、速度定数をTで割りませんでした。
アイリングプロットを行う場合、プレエクスポーネンシャルファクタ(expの前)に、活性錯合体の分配関数に由来する項が付いています。このTを除しているんですね。

式の導出はこちら

10版になり、全般的に解説がかなり親切になったように思います。Eyring式の導出のとこは、そこまでわかりやすくないかもしれませんが。。。

一応、以下、Eyring式について軽く記述します。
二次反応について書きましたが、一次反応でもやることは一緒です。


反応速度を求める理由
反応速度式と反応速度定数を求める実験には、大きく分けて二つの意味があります。
1. 任意の条件で、ある収量を求めるにはどれくらいの時間がかかるかを見積もる
2. 反応機構について考察する

速度式がきっちり決まっていれば、収率をあと10%上げたければどれくらい待てばよいのか、理論的に求まります。商売しようと思ったら大事ですね。
たとえばとても遅い反応を仕込む場合には、多少試薬の値段がかかってしまっても、濃度が高くなるように余分に仕込んだほうが経済的になるかもしれません。

アカデミックな研究の場合では、2.の理由が反応速度を求める場合のモチベーションになるでしょう。速度式については、また何かでまとめたいと思いますが、速度式が決まってしまえば、反応についての大事な情報の一つ、活性化パラメータがここから求まります。


活性錯合体理論
反応速度が決まる機構について、いろいろなモデルがありますが、現代の有機・無機化学反応機構の素過程について論じる場合には、Henry Eyringの構築した活性錯合体理論に沿って議論するのがスタンダードです。

反応が進行するには、活性錯合体と呼ばれる高エネルギーの状態(いわゆる遷移状態)が形成し、活性錯合体の結合が切れる・活性錯合体と新たな結合ができる、過程が起こると反応が完結するというモデルです。

簡単な2次反応を考えましょう。以下の反応の速度V [M s-1]は、2次速度定数 k' [M-1 s-1]と、二つの反応物の濃度 [A]、[B] (それぞれ単位は [M])で決定します。

A + B → Product
V = [A][B]

Eyringの理論では反応座標の頂点では、(I) 活性錯合体 (A-B‡) が生成し、(II) その錯体上の結合が切れる and/or 生成することで反応が進行します。反応式にA-B‡ を突っ込むと以下のようになります。

A + B ⇆ A-B‡ → Product


金属イオンと配位子が配位結合を生成する場合の錯形成反応とおんなじノリで考えよう、というのがミソです。

(I) この活性錯合体の濃度は、以下のように記述できますので、活性錯合体 A-B‡ は、AとBの濃度が高いほどたくさん生成します。

[A-B‡] = K‡[A][B]

普通の平衡の式とは少し違うよ、遷移状態についてだよ、という意味で、Kにもダブルダガー(‡)がついています。

K‡ の単位は [M-1] 、とおもいきや、平衡定数は定義的に無次元です。なぜなら、無次元量である活量によって定義される値だから。実際に実験していると、K [M-1]と書いてあることもあるんだけど、、、実験値の解析と理論の間には、少しギャップがあるということか。実験屋がきちんと定義を意識していないだけか。詳細わかったら、また書きます。
[2019.07.26追記: シュライバーアトキンス無機化学上巻P170脚注によれば、平衡定数は、無次元の活量で定義されるため無次元となるが、平衡定数を濃度で表した濃度平衡定数は、単位を持つ量として定義される。]

(II) A-B‡ ができたのちに、目的の結合が切れる・あるいは生成するには、その結合の振動数 ν [s-1]に相当する時間だけ、待つ必要があります。

つまり反応速度は活性錯合体の濃度と、その変化する速度で記述できます。

V = [A][B] = ν[A-B‡]

つまり、以下のようになり、反応速度を決定する k は、νK‡ からできていると考えることができます。ここでのvは、活性錯合体が崩壊するような運動(つまり反応座標を左から右へと進む振動)の振動数です。

V = [A][B] = νK‡[A][B]   ⇒ k = νK


ここで、 両辺の単位は [M-1 s-1]となりそうですが!
一番上に書いたように、Eyring式はk  [s-1] についての理論です。
k に°c [M]をかけてk c° [s-1] としたものを使う、というのがGold Book上での説明です。
きちんと説明してくれてない。。(c°は1とする。)アトキンス下巻には、ちゃんと説明あります。

K‡ = a[A-B‡]*c°/a[A]a[B]  (無次元の式)




活性化エネルギーの内訳(活性化エンタルピーとエントロピー)
活性錯合体は、基底状態からΔG‡ だけ、大きなエネルギーを持っているということを踏まえると、ファントホッフの式でやるのと全く同じように、K‡ をエンタルピーとエントロピーの項によって書き換えることが可能です。
(ΔG‡ だけ高いエネルギー準位にいる分子の数は、ボルツマン分布 [expとRTによる支配]に従うっていうことです。)

 K‡ = exp (–ΔG‡/RT) = exp (–{ΔH‡ – TΔS‡}/RT)

ν についてはボルツマン定数 (kB: 1.380*10^-23 [J K-1]) とプランク定数 (h: 6.626*10^-34 [J s])、温度 (T)に依存して、以下のようになります。

 ν = (kB*T/h) = (2.083*10^10 [s–1 K–1])*T

反応速度定数の内訳は、


kc° [s-1] νK‡ = {(2.083*10^10 [s–1 K–1])*T * exp (–{ΔH‡ – TΔS‡}/RT)

となります。温度 (T) が大事なパラメータになっています。温度を変えて実験して、それぞれの温度における k の情報から活性化エンタルピー(ΔH‡ )と活性化エントロピー (TΔS‡) を求めることができます。具体的にはアイリングプロット (Eyring Plot) と呼ばれるプロットを取り、その傾きと切片から情報を抽出します。
片々 T で割ったあとに ln を取ります。(lnを取る際に、掛け算が足し算になっているところに注意[赤字])

ln (kc°/[s–1 K–1]) = {ln 2.083*10^10 [s–1 K–1]} + (–{ΔH‡ – TΔS‡}/RT)

温度に依存する項と、依存しない項に切り分けます。

ln (kc°/T) = {23.760 [s–1 K–1] + ΔS‡/R} + (–ΔH‡/R)(1/T

ln (kc°/T) vs (1/T) をプロットすれば、y = b + ax の形になり、y 切片から活性化エントロピーの情報が、傾きから活性化エンタルピーの情報が抽出できます。

b = {ln (2.083*10^10 [s–1 K–1])} + ΔS‡/R}   ⇒  ΔS‡ [J K-1 mol-1] = R [J K-1 mol-1] * (b – 23.760 [s–1 K–1])

a = –ΔH‡/R

得られたΔH‡ とΔS‡ を、他の系と比較したり、置換基などでどのような影響を受けるのか評価することで、遷移状態について思いを馳せることができるようになります。

遷移状態は、実験的に捉えることが不可能な状態なので、計算以外の方法で遷移状態についての情報を抽出できる反応速度の解析は、非常に重要な手法です。

[2019/07/26 改訂]

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